

- 「O2セプト」の開発が始まったのは、2009年7月。オルソケラトロジー用ハードコンタクトレンズが、日本で初めて新医療機器としての認可を受けたことが大きなきっかけになりました。オルソケラトロジーとは、特殊なデザインの高酸素透過性ハードコンタクトレンズを就寝時に装用することで角膜の形状を矯正し、目覚めから1日裸眼で過ごすことができるという技術です。画期的な近視矯正法として、アメリカを中心に普及が進んでいますが、一方で、瞼を閉じた状態で長時間ハードレンズを付けていると角膜に酸素が十分に行き届かなくなり、菌に感染しやすい状態に陥るという危険性をはらんでいます。しかも、レンズ自体が特殊な形状をしているため、ケアの際にこすり洗いしても、どうしても洗浄効果を得られない部分ができてしまう。実際に、海外で実施された実態調査で、利用者の間で眼感染症が増加しているというデータも得られています。ちょうど同年7月に開かれたコンタクトレンズ学会でも、その安全性について議論がなされ、ソフトレンズ用のヨウ素タイプのように、消毒効果の高いケア用品を求める声が上がりました。


- 加えて、ハード用のレンズケースは長期間使用されることが多く、形状も複雑なために汚れや菌がたまりやすくなっています。中でもしぶといのが、眼に悪影響を及ぼす緑膿菌。この菌が浮遊状態であればソフト用1本タイプ(MPS)の消毒成分でも十分に消毒することができるのですが、レンズケースに付着してしまうと、自分を守ろうと鎧をまとうようにバイオフィルムを形成するため、MPSではアタックできなくなるのです。私たちが独自に行った感染経路を究明するIn vitroの実験でも、レンズケースに付着した菌がレンズに移り、レンズを介して角膜細胞に侵入する事が確認されています。学会でも、遺伝子の領域から感染経路の研究を進められている研究者が、その危険性を強く指摘しています。つまり、いくらレンズ自体を丁寧にこすり洗いして清潔に保っても、保存するケース自体が汚れていては意味がないのです。
こうしたハードレンズを取り巻く状況をふまえ、私たちは新たに研究開発チームを発足しました。そして、特殊な形状でもレンズ全体に効果を行き渡らせ、同時にレンズケースの除菌も行える、つけおきタイプのポビドンヨード製剤「O2セプト」の開発に乗り出したのです。


- すでに改良を重ねた実績のあるソフトレンズ用の固形剤と違って、「O2セプト」は液剤。液剤化させるためには、有効成分であるヨウ素の安定性をいかに保てるかが勝負でした。例えば、ヨウ素を配合したうがい薬は水で薄めて使いますよね。ではなぜ始めから薄めた状態で販売していないのか。濃度が薄いと、ヨウ素の消毒効果がどんどん弱まっていくからなのです。しかもある程度薄めないと効果が出ない性質があるため、使用する直前に水で薄める必要があるわけです。しかし、私たちが目指したのは最初から薄めた状態で即使えるようにすること。その状態で消毒効果を維持させるのはかなりの難題でした。
ただ、実は「O2セプト」の開発が始まる以前から、何年もかけてこの基礎研究は進めていたため、ヨウ素を液剤化させる答えはすでに持っていました。ならばすんなりと製品化されたと感じられるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。1本でつけおきができるようにするためには、液剤化させたヨウ素に洗浄成分も配合する必要があるのですが、洗浄成分によっては、ヨウ素の安定化に不具合が生じます。そのため、ヨウ素とのバランスが取れて、しかも洗浄力が高い成分をスクリーニングする必要があったのです。
ここからはまさにトライ&エラーの繰り返し。さまざまな候補成分を処方しながらスクリーニングし、検証を重ねていきました。本当に大変な作業で、できるだけ早くユーザーにお届けするために限られた開発期間の中で成果を出さなければならないというプレッシャーもありました。しかし、私は元々負けず嫌いで、ハードルが高ければ高いほど燃えるタイプ。開発担当者を奮起させ約半年という新製品としては短期間で、最適な処方を導き出すことに成功しました。

- こうして新たに誕生した、世界初のヨウ素配合O2・ハードレンズ用除菌洗浄剤「O2セプト」。ヨウ素の高い消毒効果でレンズを除菌するだけでなく、レンズケースに形成されたバイオフィルムも除去できるすぐれものです。密度の濃い研究開発プロジェクトだったため、無事に商品化され、パッケージにきれいに収まった完成品を手にしたときには、開発担当責任者としてぐっと手ごたえを感じました。でも、その喜びはつかの間のこと。多くの人に快適なコンタクトレンズライフを過ごしていただけるように、研究部では基礎から応用までさまざまな研究開発が常に動いています。私の気持ちは、いつも開発終了と同時に、次なるハードルに向かっていくんですよね。




